開催趣旨

今年3月11日に起きた東日本大震災は、地震や津波、原発事故など東北に甚大な被害をもたらしました。と同時に、首都圏住民にも電力不足、食糧不足などの深刻な間接被害を与え、都市の自立の虚構性、脆弱性を浮び上がらせました。これを機に、人々は人と人との絆の大切さを痛感すると共に、人智の及ばぬ存在によって生かされ、生と死を紡ぐことに感謝する心を忘れてきたことへの反省の念を強く抱き始めました。

日本社会の高齢化、経済の成熟化の姿は、世界諸国の最先端をひた走る姿であり、その時に勃発した東日本大震災と原発問題に対してどう対処するかは、日本全体の再生・変革に止まらず、アジア・全世界の次世代に向けての新たなモデルにもなっていかなくてはなりません。

江戸時代後期、天明の大飢饉と浅間山大噴火を契機に、東日本の太平洋沿岸地域は厳しい自然・社会環境に追い込まれました。その時、社会再生の一端を担ったのは、日本海側地域、なかでも“入り百姓”と呼ばれた南砺からの多くの移民と二宮尊徳(小田原出身)に繋がる報徳思想でありました。こうした歴史的文脈からも、前回の小田原に続き、南砺で第4回ローカルサミットが開催され、全国の志民が集い、東日本復興と日本再生のプラン作りを行う意義は大きいと確信しています。そして、その時のキーワードは、「いのちの紡ぎ直し」といたします。

本ローカルサミットでは、日本人が物質的豊かさとひきかえにおろそかにしてきた、人と人、人と自然、生と死の結び合いをもう一度取戻しながら、いのちをどう次世代、未来へ送り届けていけるかを、皆で深く考え、熱く議論していきたいと思います。そのためには、新しい豊かさとは何かを明確にし、各地域が、医/食・農/住・エネルギーといったライフラインをどう自立させていくかを問い、地域間の連携や都市と農山漁村の関係のあり方の変革も整理していきます。さらに、暮らしの中の祈りや用の美のあり方やお金の使い方を見直す仕組みも具体的に議論し、志民自らが新しい暮らし方を提案していくことで、国の変革も見据えながら、いわゆる物質文明から生命文明への転換の扉を開きたいと考えています。

グローバルな波に押し寄せられるだけでなく、内なるローカルからの「いのちの紡ぎ直し」による日本再生の姿を、この南砺「土徳の里」からしっかりと描き出し、全国、アジア、全世界に発信していきたいと願っています。

富山県 南砺市について

南砺市は、富山県南西部に位置し、散居村の田園地帯が広がる平野部と、美しい自然に恵まれた山間部を持ち、世界文化遺産に登録された五箇山合掌造り集落、利賀村の演劇、木彫刻、和紙など、多くの文化的蓄積があります。

江戸時代は加賀藩に属し、金沢市に隣接していることから、加賀文化の影響を深く受けており、信仰心が強く、浄土真宗王国といわれています。 南砺市を中心としたこの地域には「土徳」という言葉が伝えられています。「土」は土地や地域、「徳」は恩恵、おかげさまの心。 見えない力に守られ、あらゆる心に感謝するー。

人々は「土徳」の心をよりどころに生活しています。

今年のローカルサミットは、3.11が提起した新しい日本の国づくりに対して、この精神風土「土徳」の息づくまちづくりを舞台に、日本人の原点に立ち返り、いま一度、〈いのちの紡ぎ直し〉を提案していきます。